みなさんキャッチーですか。ぬんです。


















3週間ほど前ですか。

2018年ドイツ年間ゲーム大賞(SdJ)と、同エキスパートゲーム大賞(KdJ)同キッズゲーム大賞のノミネート作が発表になりました。








キッズゲーム大賞も、箱の裏面で簡易プレイができるという反則的な販促で注目を集めた『Panic Mansion』に、カードの表情マネだけじゃなくて声マネまで要求されちゃう『EMOJITO』、HABAのなんかもう見た目から楽しそうな宝石集めゲーム『Funkelschatz』と、なかなか興味深いラインナップだったわけですが…




衝撃的だったのは、SdJとKdJの顔ぶれですよ!!














2018年ドイツ年間ゲーム大賞(SdJ)ノミネート作

Azul(デザイナー:Michael Kiesling)
Luxor(デザイナー:Rüdiger Dorn)
The Mind(デザイナー:Wolfgang Warsch)


2018年ドイツ年間エキスパートゲーム大賞(KdJ)ノミネート作

Die Quacksalber von Quedlinburg(デザイナー:Wolfgang Warsch)
Ganz schön clever(デザイナー:Wolfgang Warsch)
Heaven & Ale(デザイナー:Michael Kiesling, Andreas Schmidt)















下馬評段階から「これは入るのでは」って言われてたものと、「うあーこれ入るんかマジか」ってものと、「誰だお前」って感じのものに分かれますね。そりゃそうか。



じゃあどの部分を指して「衝撃的」と言っているかと言えば、ちょっと太字にする場所を変えてみたいと思うんですけども。














ドイツ年間ゲーム大賞(SdJ)ノミネート作
Azul(デザイナー:Michael Kiesling
Luxor(デザイナー:Rüdiger Dorn
The Mind(デザイナー:Wolfgang Warsch


ドイツ年間エキスパートゲーム大賞(KdJ)ノミネート作

Die Quacksalber von Quedlinburg(デザイナー:Wolfgang Warsch
Ganz schön clever(デザイナー:Wolfgang Warsch
Heaven & Ale(デザイナー:Michael Kiesling, Andreas Schmidt









6枠もあるのにデザイナー4人しか居ねえ。
ってわけです。すごい。








エッセン以降、圧倒的な存在感を醸していたのが、キースリング氏でした。


クラマー氏との黄金コンビで数々の名作を生み出してきた彼ですが、ソロで『アズール』『リバーボート』、シュミット氏とのコラボで『ヘヴン&エール』をリリースし、いずれも高い評価を得ました。

すっかり脱クラマーを果たした彼は、現在月刊少年マガジンにて『さよなら私のクラマー』を連載中です(やめなさい)



でも私はクラマーと出した『リワールド』も好きだよ!!黄金コンビまだまだ期待してるから!!













というわけで、キースリング氏関連の2作ノミネートは、まあ勢いそのままにって感じで「うんうん」と眺めていられるわけですが…


おっとどっこいそれを上回る3作品ノミネートを果たした、しかもつい最近までほぼ無名だった、スーパーニューカマーの登場に、界隈は大きくざわつきました。







この名前、もし高校で「2010年代ボードゲーム史」の授業があったとすれば、間違いなく蛍光ペンで教科書にラインを入れさせられるレベルの要チェック項目です。

脳みそにしかと焼きつけろ!その男の名は!















Wolfgang Warsch















読めねえ。






日本語表記で一悶着あったようですが、彼の作品の日本語版を複数リリースすることが決まっているアークライトさん的にはウォルフガング・ウォルーシュで落ち着いた様子。

国内で広く使われるようになるであろう呼称ということで、とりあえず私もウォルーシュ氏と呼ぶことにしましょう。













さて、ウォルーシュ氏。

2018年のニュルンベルクで一気に4タイトルを発表して、それが揃いも揃ってイケイケだった彼なのですが、実はその4作を含めても、今までで通算6タイトルしか発表されていません。


この記事では、ウォルーシュ氏の経歴になんとなーく触れながら、その作品全6タイトルについて、ゆるふわっと紹介していければなと思います。






ちなみに経歴については、Brettspielboxが2018年3月1日に公開した、ウォルーシュ氏へのインタビュー記事を参考にしてます。

http://brettspielbox.de/?p=22837
















早速パーソナルデータ的なところから入ると、ウォルフガング・ウォルーシュ氏は(インタビュー時点で)38歳。

オーストリアのウィーン在住で、がんの研究に携わっていて、子煩悩なお父さん。

BGGに掲載されている彼の顔写真を見てみると、若くも見えるしダンディにも見えるし、なんかこう…めっちゃいいなって印象です。語彙力。

https://boardgamegeek.com/boardgamedesigner/80162/wolfgang-warsch














興味深いのが、ウォルーシュ氏がゲームデザインを始めるまでは、(いわゆる)ボードゲームについて、その辺の人と変わらない程度の関心しかなかったという点です。


"その辺の人と変わらない程度"と言っておきながら、『カタン』や『エルグランデ』、『ドミニオン』、『カルカソンヌ』等は持っていたというあたり、やっぱり普及っぷりが日本とは全然違うのかしらんと感じる部分でもあるのですが…

書き振りを見るに、それらを遊ぶのも、一般的な日本人が『人生ゲーム』を遊ぶぐらいの頻度だったんじゃないかなって感じです。









そんな"その辺の人と変わらない"ウォルーシュ氏が、最初にボードゲームのデザインに着手したのは約20年前。

理由は暇だったからマジか。

結局それは出版社の目に留まらずにお蔵入り。






その後、ボードゲームデザインに取り組んでみたり離れてみたりを、1回2回繰り返してみた結果、2012年にZoch社と契約。

そして同社より2015年にリリースされたのが、彼の商業デビュー作となる『Dream Team』です。













◆Dream Team(2015, Zoch)

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4~10人用、12歳以上、45分。

サーフィンテーマか!?と見せかけてフレイバーレスな、2人1組のチーム戦モノ。










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お題から思いつく単語を、制限時間内に紙にいっぱい書き、パートナーとの一致っぷりを競う…と言うと、ちょっとありがちな感じです。

が!狙うのは、「パートナーは書いてそうだけど、他のプレイヤーは書いてなさそうな単語」

手番ごとに単語を1個言っていくのですが、その単語をパートナーも他のプレイヤーも書いていれば1点、パートナーだけが書いていれば3点が入るんですね。



じゃあニッチなところを狙っていきたくなっちゃうのですが、もし言った単語をパートナーが書いてなければペナルティ♨









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「相棒、お前だったらこの単語…書いてるよな?」
「ふん…愚問だな」


みたいな単語が通ればまさにドリームチーム!



ありがちな紙ペンゲームには納まらない、駆け引きとコンビネーションが試される素敵タイトルです。












『Dream Team』のリリース以降、継続してボードゲームデザインに取り組むようになったウォルーシュ氏。

いわゆるボードゲームをしっかりと遊ぶようになったのも、この前後の様子。

翌2016年には、Piatnik社から、これまた変わったアプローチのタイトルが発売されます。

















◆Schatten Meister(2016, Piatnik)

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3~6人用、8歳以上、40分。

ウォルーシュ氏は商業2作目にして、影絵で遊ぼうという大胆なアプローチを試みます。










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つまるところ、この影絵に使われている道具はどれでしょうクイズです。

使われている個数は判明しているので、これと、これと…これかな?てな感じで、手元のボードを使って解答。

早く解答すればするほど、全問正解時に得られるボーナスポイントが大きくなるという意地悪な仕組み。








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ゲーム開始早々流れる、「ん???これ無理では???」的なムード。

しかし、1問、また1問と場数を踏んでいくうちに、なんとなく判別の方法論を身体が覚えていきます。

そういう意味ではレガシーモノですね。違いますね。


終盤には全員普通に解答できてて面白い。
















さて、次のリリースまでは1~2年の間が空くことになります。

アイディアが枯渇気味になっちゃったのかしら…と思いきや、2018年のニュルンベルクで、一挙4タイトルをニュルンベルクっとリリースしちゃうヤンチャっぷり。



これら4作は、2016年の夏から2017年の春にかけてデザインされたもので、4作ともが今年のニュルンベルクに重なったのは偶然、らしい。

そっから3作がSdJ・KdJに絡んできちゃうんだから、ウォルーシュ氏、恐ろしい子。年上だけど。




4タイトル、まとめて見ていきましょう~~















◆Illusion(2018, NSV)

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2~5人用、8歳以上、15分。

ウォルーシュ氏、NSVからは小箱を2作リリースしておりまして、そのうちの1作です。

すごくどうでもいいんですけど、私のPCからだとフォント的に「アイの大文字」と「エルの小文字」の見分けがほぼつかなくて、見出しの字面がなんかすごいことになってます。Illusion。










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つまるところ、色の構成比順に正しく並べてドン!みたいな感じです。

画像の例だと、矢印に近い方から始めて、段々カード内の青色の面積が大きくなっていくようにカードを並べると。


影絵といいこれといい、扱うテーマが素朴というか、人間の感覚に訴えてくるものというか、子供の遊びの延長線上みたいなセレクトで面白いですね。

インタビューの中で、キッズゲームの製作にも意欲を示している様子が書かれていたので、近い将来、もっとわんぱくな代物が飛び出してくるかも知れません。







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手番には、1枚引いて適切な位置に加えるか、現在の場に関してダウトをするかのいずれか。

ダウトの成功/失敗に応じて、得点が入ります。

過去2作と合わせて眺めてみると、全体的におもしろコンセプトに甘えることなく、ちゃんと駆け引きを楽しませようとする意図が見えていいなーって感じなんですけど、得点回りの調整は割と雑めなのが胸キュンポイントです。
















◆The Mind(2018, NSV)

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でたな問題児。

2~4人用、8歳以上、15分。

NSVからの小箱のもう1作にして、2018年ドイツ年間ゲーム大賞(SdJ)ノミネート作品です。









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同じくNSVの『ザ・ゲーム』を彷彿とさせる、1~100までの数字が書かれたカードを用いる協力型ゲーム。

レベル1から挑戦開始。プレイ人数に応じて、用意されたステージをすべてクリアすれば勝利です。








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各レベルでは、レベル数に等しい枚数のカードが、各プレイヤーに手札として配られます。レベル1では1枚ずつ。レベル2では2枚ずつ。

各プレイヤーは任意のタイミングで手札のカードをプレイ。

すべてのカードを昇順になるように、つまり小さい方から順番にプレイすることができればステージクリアです。シンプル。


手札の内容については一切相談禁止です。









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では、何をヒントにカードをプレイしていけば良いかと言えば、






何もありません。






本当に何もないのです。VOIDです。



ルールを読んで衝撃を受け、遊んで衝撃を受けた作品でした。

これはゲームとして成立しちゃいけない。なのに成立してしまっている。ウケる。




初めて遊んだ時は、「古今東西の様々なボードゲームを遊んできた手練れが、一周回ってこんなの作っちゃいました的な作品なんだろうな…」的なことを想像したものですが、ボードゲームに傾倒していたわけではないウォルーシュ氏が、『ザ・ゲーム』すらも遊ばないまま『The Mind』を生み出してしまったなんて、本当に事実は小説より奇なりを地で行く感じだなあという印象です。









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インタビューにてウォルーシュ氏は、


「アイディア的には長年あったんだけど、ぶっちゃけ上手くいくと思ってなくて後回しにしてた」

「2016年の夏に、適当な数字カードを兄弟に渡してテストプレイしてみたら、まさかのシンクロに成功した」

「そこから完成までは、1週間とかからなかった」


等と供述しており
、初期衝動的な素直さをもって、完全に肩の力が抜けた状態で、『The Mind』が生み出されたことが分かります。興味深過ぎる。

















◆Ganz schön clever(2018, Schmidt)

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1~4人用、8歳以上、30分。

Schmidt社からリリースの、小さ目の中箱というか、大き目の小箱というか。

2018年ドイツ年間エキスパートゲーム大賞ノミネート。国内では、『ガンシュンクレバー』という読みが定着しています。









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ダイスの出目を使って、個人シートに書き込みをしていく、いわゆるRoll'n Writeモノ。

親プレイヤーが複数のダイスを振り、子がおこぼれを頂戴する辺りまでは、よく見るパターンですね。



特徴としては、個人シートが複雑

ダイスの色に応じて、様々な方法で書き込みと得点ができる感じ。


そして、一番の売りが連鎖感

ここにチェックを入れると~~こっちにチェックを入れられるボーナスがゲットできて~~こっちにチェックを入れると~~さらにこれが発動して~~

的な、スイッチ1つで起こした爆発がさらなる爆発を呼ぶような、爽快感溢れるコンボが楽しめちゃうぞ。









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人間の感覚の原生的な部分に、ふんわりと訴えてくるタイトルが多かったウォルーシュ作品ですが、これは割とストレートに、ゲーマーが喜びそうな部分を触ってきたなという印象です。

ただ、数あるRoll'n Writeモノの中に紛れ込んだときに、そこまで飛びぬけてクレバーな存在かと言われると、ちょっとうーんという気もします…

















◆Die Quacksalber von Quedlinburg(2018, Schmidt)

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2~4人用、10歳以上、45分。

Schmidt社から大箱でリリース。

2018年ドイツ年間エキスパートゲーム大賞ノミネート。国内では、『藪医者』『クアックサルバー』が呼称の2大派閥って感じでしょうか。









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藪医者になって薬を調合するゲームです。

ウォルーシュ自身の発案なのか、Schmidt社サイドからの味付けなのかは不明ですが、フレイバーらしいフレイバーがしっかり付いている唯一のウォルーシュ作品ということになります。今のところ。









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メカニズム的には、バッグビルディングPress Your Luckを掛け合わせた感じ。

毎ラウンド、自分の布袋から好きなだけチップを引き、自分の大鍋に突っ込んでいきます。

大鍋内へのチップの配置っぷりに応じて、勝利点を得たり、新たなチップが購入できたり、みたいな。

ただし、白いチップは引き過ぎちゃうと大鍋が爆発しちゃって(いわゆるバースト)、勝利点の獲得かチップの購入のどちらかしかできなくなっちゃったり、みたいな。

だから、適切なタイミングで引くのをやめねば、みたいな。








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組み込むというよりも、白いチップの割合を薄めていくところが一つ肝になるバッグビルディング。

皆でワイワイしながらチップを引いていく感じが、ドキドキしていいですね。拡大再生産っぷりも楽しいです。

運要素もしっかりあるし、やることもシンプルだし、去年の『エルドラド』辺りと比べてみても、これKdJって言うよりはSdJ寄りなのでは?って印象だ。

誰にでも勧めやすい、すごくいいゲーム。

















こう6タイトルを並べてみると、どれもアプローチだったり、醸される雰囲気だったりにユーモアがあって素敵です。

やっぱり鍵は、ボードゲームというものに対する固定観念の無さ、なのかしら。あと茶目っ気。



ウォルーシュ氏は現在も進行中のプロジェクトが複数あり、『ガンシュンクレバー』の拡張なんかも予定しているとのこと。

まだまだ目が離せません。














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というわけで、ウォルフガング・ウォルーシュ氏と、彼のデザインしたゲームについてご紹介しました!


SdJとKdJの結果も楽しみですね。

こうやって色々調べたり書いたりしてると、つい贔屓したくなってしまうな。